翁生徒さん
わざわざ宇都宮からいっしゃる生徒さんが
“鳳凰美田 ブラックラベル”
を持って来てくださった。
御年76歳の生徒さん、今から約15年前に宇都宮で演奏をさせて頂いた折、楽屋に押しかけて来て「習いたい」の一言。
その時の猪突猛進の印象は、最初のレッスンで一瞬にして崩れた。
薄汚れた茶色か焦げ茶か判らない色のリックサックスから溢れんばかりの野菜。
「先生!食べてみろ」と、ちょっとはにかんだ笑顔がとても素敵な翁に変身した。
実はもう1人わざわざ函館から来てくださる翁生徒さんも野菜造りの名人だ。
函館の翁生徒さんはジャガイモの名人。
宇都宮の翁生徒さんはキュウリとナスの名人。
お陰様でこの種の野菜は事欠かない。
宇都宮の翁生徒さん、月1回のレッスンに必ず自分の作品を持ってきて、その渡す日焼けした手は全て親指みたいに太くて短い。
畑仕事をしてきた素敵な手。
ある時から足腰が悪くなり、それを心配した娘さんが車で付き添って来られるようになった。
娘さんは家に立ち寄るでもなく、何処かで待っておられるのだろうか。
それが気になって、翁生徒さんに訊いたら
「い~や、気にせんでください。娘はショップモール(ショッピングモールのことだろう)だ」をあの北関東のイントネーションで、ズバッとレッスンに集中。
この集中力が素晴らしい!
今年、新しいフルートが我が家にやって来た。
翁生徒さんが「アキヤマフルートだ」
食い入るようにフルートをみる。
その眼差しは、前に「フルートを買いたくても買えなかった」と話してくれた、あの時の想いが眼に宿っていた。
フルートが来たお祝いにと持って来てくださった
“鳳凰美田ブラックラベル”の一升瓶!
我が家の小さい冷蔵庫の野菜室をその一升瓶は占領した。
それ以来、アキヤマフルートの名工の手によって造られた温もりを感じながら、小さいコップに一杯だけ呑み、
少し酔った気分で、美しいフルートを翁生徒さんのように食い入るように観ている。
まったりとしたお米の味が舌に纏わり付くお酒で、室温に戻すとそれがなお広がっていく。
翁生徒さん曰く
「新潟の人は淡麗辛口が口に合うだろうけど、こういうお酒もある」
正にその通りであった。
とても美味しく、日本酒らしい日本酒だ。
あの翁生徒さんの日焼けした太い手と、素晴らしいフルートを造るアキヤマフルートの秋山さんの手。
人の手って、凄いな。
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